Googleが獲得したMotorolaの特許の価値は55億ドル?
グーグルのモトローラ・モビリティ買収、特許等は55億ドル--全買収金額の半分以下 (CNET Japan)
「全部で124億ドルも払ったのに!」なんていう投資家がいるかも知れません。
Googleが7月24日に米SECに提出したForm 10-Q (四半期報告書に相当)によると、GoogleがMotorola Mobility社(以下、Motorola)のすべての普通株式を取得するために支払った買収対価(purchase price)は総額で約124億ドルであり、そのうち特許等(patents and developed technology)は55億ドルとのこと。
ところで、特許を獲得することが目的であったとしても、Googleが買ったものはあくまでもMotorolaの株式なので、Motorolaの持っていた特許に直接値段がついたわけではありません。GoogleはMotorolaの株式を買うことによって、間接的にMotorolaの保有していた特許等を入手しただけです。
では、今回どうして特許の評価額が出てきたかというと、会計ルールによる要請があるからです。Googleが買ったのはMotorolaの株式ですが、Googleの連結決算においては、Motorolaが保有している資産および負債をすべて公正価値(fair value)で評価して取り込む必要があります。そこで、今回のような企業買収の場合には、買収対価(支払った金額)を取得した子会社の資産および負債に割り付けていく手続き(Purchase Price Allocation)が必要になってきます。
つまり、総額が先にあって、それを現預金、在庫、土地及び建物、機械及び設備などに割りつけて内訳を作っていくということです。この際、特許についても公正価値で評価することになり、最終的に割り付けられずに残った金額は「のれん」となります。
今回の内訳は、総額124億ドルに対して、現金が29億ドル、特許及び開発技術が55億ドル、26億ドルがのれん、7.3億ドルが顧客関係資産(既存顧客から得られるであろう将来利益)、6.7億ドルがその他資産及び負債とされています。のれんについては、基本的に買収後に期待されるシナジーだそうです。
特許等の公正価値については、ロイヤルティ免除法(その特許を持っていなかったとしたら支払う必要があるであろうロイヤルティの割引現在価値により評価する方法)によって評価することが一般的です。本件特許のGoogleにとっての真の価値は将来の訴訟費用の削減にあると思われますが、公正価値を評価する場合にはGoogle固有の事情は考慮しない(一般的な市場参加者を想定)ことになっているので、公正価値は小さめに出てしまうかもしれません。その分、買収対価との差額であるのれんの金額が大きくなってしまうのですが、アンドロイド事業で利益が出ているうちは、減損ということにはならないでしょう。
というわけで、CNETの記事では「55億ドルの価値しかない特許を買うのに124億ドルも払った!」という論調になっていますが、必ずしもそういうわけではなく「とにかく買うためには124億ドルが必要だった。会計ルールに沿って評価してみたら、特許の評価額は55億ドルということになった。」ということです。PPAの結果は、取引価格ではなく公正価値なので、その点で注意が必要です。
ちなみに、Googleは2012年の上半期にMotorola以外に24件の企業買収/無形資産取得を行なっています。また、6か月間に取得した特許等の使用可能期間は加重平均で9.0年、顧客関係は7.5年、商品表示等は9.3年となっています。
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(当初、内訳の数字に誤りがあったため修正しました。7/27 21:52)
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