「六甲のおいしい水」のお値段は?
アサヒ飲料株式会社による、ハウス食品株式会社のミネラルウォーター事業取得に関するお知らせ「六甲のおいしい水」事業が53億円で売買されました。
対象事業の2009年3月期の売上高は122億円で、2008年3月期の160億円から大きく減少しており、2010年3月期も国産のミネラルウォーターは概ね前年並みとのことなので、売上高倍率でいえば0.43倍で取引されたことになります。
ハウスの発表によると、売却されるのは「製造工場・採水地(土地・建物・構築物・機械設備等)及び商標権等」とされており、商標権が対象事業に含まれることが明記されています。
他方、アサヒの発表文では「製造及び販売事業(六甲工場、灘採水場の 土地建物設備を含む)」とされていてリリース文には商標権という文字はでてきません。そのかわり、「六甲のおいしい水」をアサヒのブランドとして使用することが明記されており、ブランド力の向上を追求するとしていますので、商標権を譲り受けるのは間違いないようです。
さて、本件の会計処理ですが、売り手側のハウスでは譲渡資産の簿価は5,589百万円で売却額53億円ですから289百万円の売却損となります。発表文でも3億円の特別損失が発生するとしているので、ほぼ整合します。
問題は買い手側のアサヒの方です。「六甲のおいしい水」というのは誰でも知っている著名な商標ですからちょっと考えると大変な価値がありそうですが、ハウスに払う額が53億円で譲り受ける工場や採水場の土地建物設備だけで簿価56億円となっています。これでは商標権の値段はマイナスになってしまいます。
ここで、この4月から適用されている新しい会計基準では、譲り受けた有形固定資産に加えて商標権のような法的権利も取得資産に含めて認識し、取得対価である53億円をこれらの資産に配分することを求めています。
ちなみにいままでの会計基準では、商標権のような無形資産は「資産として認識することができる」という規定だったため、事実上、商標権等の無形資産が資産計上されることはありませんでした。
今回の事業譲渡では、工場等の有形資産はミネラルウォーター市場が厳しい競争状態にあって収益性が限られていることから譲渡前の簿価5,589百万円から相当程度の切り下げ(減損)が必要となると想定されます。
他方、商標「六甲のおいしい水」の方は日本国内において著名な商標であることは間違いなく、単独で事業と切り離した形で他のミネラルウォーター事業者にライセンスしてロイヤルティを得ることも可能(実際にはやらないでしょうが)と考えられるため、譲渡対価の53億円の一定部分は商標権に配分するのが自然ではないかと思えます。
ただし、いままでそのような形で無形資産を認識し対価を配分するという実務がなかったため、これまで通りに固定資産を53億円で買った、という会計処理になってしまうのかもしれません。
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