イギリスのパテントボックス税制:対象となる企業は?
2013年4月からイギリスにもパテントボックス税制(対象特許に係る所得の法人税率を10%に軽減するもの)が導入されます。
今回はどのような企業が対象となるかについてです。
主な条件は、1.在英国企業、2.特許権または独占実施権、3.開発要件、4.積極的保有要件、の4つです
まず、当然ではありますが、
- イギリスの法人税課税を受けている企業であること
が必要です。在英国法人のほか、イギリスにいわゆる恒久的施設(PE)を有している場合も該当します。また、法人のみが対象となりますので、個人や信託は対象外です。
なお、パートナーシップを組んでいて、パートナーシップが特許または独占実施権を保有している場合には、パートナーである法人に適用がある場合があります。また、費用分担契約(cost sharing arrangements)を結んでいる場合には、契約当事者のうち一社が特許または独占実施権を保有、契約当事者のそれぞれが当該権利の開発に貢献、権利活用の利益を相応に享受しているときに、適用となる場合があります。
次に、特許等保有要件(ownership/licensee conditions)については
- パテントボックス税制の対象となる特許を保有している、または独占的ライセンスを受けていること
となります。ここで対象となる特許については、UK特許、EU特許のほかいくつかのEEA諸国の特許などがあります。詳細はリンク先をご参照のこと。
独占的ライセンスについては、地域的な制限があっても構いませんが、ある国の一部だけでは不可で少なくともひとつの国全体(at least country-wide)が権利範囲に含まれている必要があります。更に、独占的ライセンシー自らが権利行使できる、またはライセンサーが権利行使で得た損害賠償金を受け取る権利を有していることも必要です。
次に、開発要件(develoment condition)については
- 対象会社自身が、対象となる特許を創造している(または創造に重要な貢献をしている)、あるいは対象特許の開発、対象特許を活用した製品やプロセスの開発に重要な活動を実施していること、または
- 対象会社が特許保有要件を満たしている場合に、グループ会社が対象特許の創造、開発または活用を行なっていること
となります。ここで何が「重要な活動」に該当するかは事実問題となりますが、少なくとも既に出来上がっている特許を取得して製品に適用するだけでは「重要な活動」には該当しません。しかし、ブレークスルーとなるアイディア、アイディアを実現するためのテストなども重要な活動に該当するかもしれません。また、発生した費用、時間、労力などによっても重要な活動になりえます。
また、例えばある課題を解決するための研究を続けていたが、その解決策を他社が特許化したので、当該他社を買収して特許を取得した場合には、(特許が他社開発のものであっても)開発要件を満たします。他方、開発行為を伴わずただ取得した特許の商品化活動またはライセンス活動のみを行う場合には、開発要件を満たしません。(パテントトロールはここで排除されることになります。)
なお、A社についてパテントボックス税制の適用を受ける場合に、グループ会社のB社が研究開発を行い、その結果得られた特許をC社が保有していて、C社がA社に独占ライセンスを供与している場合も適用になります。
そして最後に、積極的保有要件(active ownership condition)については、
- 対象会社自身が開発要件を満たしている(この場合、自動的に積極的保有要件を満たします。)、または
- 対象会社が、実質的にすべての対象特許等の開発、活用に関連する計画および意思決定について関与していて、対象特許について積極的な管理活動を行なっていること
となります。この要件の目的は、対象会社が受動的な特許等保有会社ではないことを担保するということです。
例えば、対象特許等について、ある国における保護を継続するかどうかの決定、ライセンスを供与するかどうかの決定、発明について他の用途の調査などは管理活動に含まれます。同様に、対象特許を活用した商品を、どこでどんな性能でどうやって売るかといった活動も管理活動に含まれます。
日本企業が英国子会社についてパテントボックス税制を適用しようとする場合には、特許自体を譲渡することは考えにくいので独占ライセンスを供与することになるケースが多いと考えられます。この場合、製造子会社あるいは販売子会社の場合には積極的保有要件を満たす管理活動(開発業務またはマーケティング業務)を行なっていると想定されますので、パテントボックス税制が適用できるケースが結構あるのではないでしょうか。(なお、独占ライセンスのロイヤルティについては、別途移転価格税制の観点からの検討が必要です。)
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IP Valuation Patent Office
www.ipval.net
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