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パテント・トロール対策としてのSHIELD法案について

自らは事業を行わず、投資家から集めた資金を使って特許を取得し、その特許を使って実際に製品を作ったりサービスを提供している企業を特許侵害で訴え、和解に持ち込んで和解金を得るあるいは判決で損害賠償を得る、という活動を行なっている主体をパテント・トロール(特許の怪物)といいます。

怪物というのはあまりほめられた表現ではないため、よりフォーマルにはNon-Practicing Entities (特許を実施していない主体)略してNPEsと言われています。

ボストン大学の調査によると、2011年に米国でNPEs(いわゆるトロールのほか、個人発明家、大学、自社製品と無関係の特許権を行使した企業を含む)に要した直接費用(訴訟費用とライセンス・フィー)は290億ドルに達しています。(http://www.bbc.com/news/technology-18598559)

仮にNPEsから訴えられた場合、十分な資力のない企業は訴訟を継続する費用を賄うことができないため、早期に和解に応じざるを得ないといった状況に追い込まれがちです。

こうした、既存の特許制度の機能不全ともいえる状況に対して、米国議会にパテント・トロール対策法案ともいえる法案が今年の8月に出されました。その名も The Saving High-tech Innovators from Egregious Legal Disputes Act (SHIELD Act)です。直訳すると、ハイテク・イノベーターを不当な法的争いから守る法ということになります。

法案の内容は、コンピュータ・ハードウェアまたはソフトウェアの特許侵害に関する裁判について、裁判所が「特許侵害を主張する者(特許権者)が、合理的に勝てる見込みがなかった(did not have a reasonable likelihood of succeeding)」と決定した場合には、裁判所は訴えられた側のすべての訴訟費用(合理的な弁護士費用を含む)を訴えた側の負担とすることができる、というものです。

通常のルールでは、防御側が要した弁護士費用は裁判の勝ち負けにかかわらず防御側の負担であるため、事業を行なっている企業はディスカバリー等の多額の費用を要することとなり(他方、訴えた側は事業を行なっていないので、要する費用は相対的に少額となる)、これが早期の和解に傾く要因ともなっていました。

訴える側の特許権者としては、相手方の多額の弁護士費用が自分の負担となって跳ね返ってくる可能性があると思うと、容易に訴訟に打って出ることはしにくくなるため、この法案がもし成立したら、パテント・トロールを抑制する効果は大きいです。

ただし、法案は特にトロールに限定したものとはなっていないため、ハードウェア特許やソフトウェア特許を持つ個人など十分な資力のない主体についても、同様に裁判を起こすことは難しくなります。個人がマイクロソフトを自身のソフトウェア特許の侵害で訴えて、後でマイクロソフトが使った弁護士費用を払えと言われたら破産確定です。

そういう意味では、この法案で最も助かるのは、いつもいつも権利範囲が曖昧なソフトウェア特許で訴えられているアップルやマイクロソフトといったHigh-Tech Giantsということになりそうです。

なお、ソフトウェアに特許を認めることについては、米国でもまだ議論が決着していないようで、このSHIELD法案でも条文中にソフトウェア特許の定義 (any process that could be implemented in a computer regardless of whether a computer is specifically mentioned in the patent) が含まれているものの、これは特許の対象となるもの (categories of patent-eligible subject matter)の修正や解釈を意味するものではない、つまりソフトウェア特許を積極的に認めるものではない旨の文言が含まれています。

ソフトウェア特許やビジネス方法特許は、米国や日本では認められていますが、EUやイギリスでは限定的にしか認められていません。最近ではこれらの特許はそもそもの目的である産業の発達を阻害しているのではないかとの論調を目にすることも多くなってきています。

現実に事業を営んでいる企業としては、現行の制度の中で競争していくしかないため、ソフトウェア特許が経済全体に与える影響にかかわらず、自社に取って必要であればそれを使っていくことになります。競争条件を整え、イノベーションを促すのは政府の役割です。


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