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ライセンスを受ける権利 (the right to acquire licenses)の対価

アップル、NeXTやAnobitに次ぐ大型買収―指紋認証のAuthenTec (ASCII.jp)

アップル、セキュリティ企業オーセンテックを3億5,600万ドルで買収 (ComputerWorld)

既報のとおり、アップル社がモバイル・セキュリティ企業であるAuthenTec社を買収する意向であることが、AuthenTecが7月27日に米SECに提出したForm 8-Kによって明らかになりました。

買収の方式は、アップルの100%子会社(今回の買収のためのSPC)とAuthenTec社の現金対価による合併(cash-out merger)であり、AuthenTecの株主は1株につき8ドル(7月26日終了時点の同社株価5.07ドルに対して約58%のプレミアム)を受け取り、AuthenTecはアップルの100%子会社になります。買収対価は総額で約355百万ドル。

これだけなら普通の買収なのですが、今回はこの合併契約とは別に "Intellectual Property and Technology Agreement" (知的財産および技術に関する契約書)が、アップル社とAuthenTec社の間で締結されています。

知的財産および技術に関する契約書は、通常のライセンス契約ではなく、アップルが契約期間(270日)内にライセンスを受けるかどうかを一方的に決められる形になっています。つまり、アップル側にライセンスを獲得するオプションが付与される形です。ただし、その対価(オプション料)として、まずアップルが20百万ドルをAuthenTec社に支払います。

次に、アップルは270日以内にライセンスを獲得するかどうか決定し、ハードウェア技術(および特許)についてライセンスを受ける場合には総額90百万ドル、ソフトウェア技術(および特許)については同様に総額25百万ドルを支払うこととなります。これはオプション契約でいう「行使価格」に該当します。なお、ライセンスの条件は、「非排他的、永久、取消不能、全世界、ロイヤルティフリー」となっています。

Intellectual Property and Technology Agreement

On July 26, 2012, Parent and the Company entered into an Intellectual Property and Technology Agreement (the “IP Agreement”). The IP Agreement provides Parent with the right to acquire non-exclusive licenses and certain other rights with respect to hardware technology, software technology and patents of the Company.

For the right to acquire such non-exclusive licenses and other rights, Parent will pay the Company $20.0 million. Parent will have 270 days from the date of the IP Agreement to choose, in its sole discretion, to license certain hardware technology and patents and/or certain software technology and patents on a perpetual, non-exclusive basis for an aggregate sum of up to $115.0 million.

アップルにとっては、2千万ドルを支払うことにより、対象技術の内容を見極める時間が得られるということですが、買収対価355百万ドルをAuthenTec社株主に支払って、更に保有技術のライセンスに20百万ドル+115百万ドルをAuthenTec社自身に支払うというのは、二重払いのような気がします。結局、ライセンスの対価は親子間取引なので、AuthenTecの役職員に対するボーナスのようなもので、270日間でいいもの作ってくれよ、というインセンティブ目的なのかもしれません。

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Googleが獲得したMotorolaの特許の価値は55億ドル?

グーグルのモトローラ・モビリティ買収、特許等は55億ドル--全買収金額の半分以下 (CNET Japan)

「全部で124億ドルも払ったのに!」なんていう投資家がいるかも知れません。

Googleが7月24日に米SECに提出したForm 10-Q (四半期報告書に相当)によると、GoogleがMotorola Mobility社(以下、Motorola)のすべての普通株式を取得するために支払った買収対価(purchase price)は総額で約124億ドルであり、そのうち特許等(patents and developed technology)は55億ドルとのこと。

ところで、特許を獲得することが目的であったとしても、Googleが買ったものはあくまでもMotorolaの株式なので、Motorolaの持っていた特許に直接値段がついたわけではありません。GoogleはMotorolaの株式を買うことによって、間接的にMotorolaの保有していた特許等を入手しただけです。

では、今回どうして特許の評価額が出てきたかというと、会計ルールによる要請があるからです。Googleが買ったのはMotorolaの株式ですが、Googleの連結決算においては、Motorolaが保有している資産および負債をすべて公正価値(fair value)で評価して取り込む必要があります。そこで、今回のような企業買収の場合には、買収対価(支払った金額)を取得した子会社の資産および負債に割り付けていく手続き(Purchase Price Allocation)が必要になってきます。

つまり、総額が先にあって、それを現預金、在庫、土地及び建物、機械及び設備などに割りつけて内訳を作っていくということです。この際、特許についても公正価値で評価することになり、最終的に割り付けられずに残った金額は「のれん」となります。

今回の内訳は、総額124億ドルに対して、現金が29億ドル、特許及び開発技術が55億ドル、26億ドルがのれん、7.3億ドルが顧客関係資産(既存顧客から得られるであろう将来利益)、6.7億ドルがその他資産及び負債とされています。のれんについては、基本的に買収後に期待されるシナジーだそうです。

特許等の公正価値については、ロイヤルティ免除法(その特許を持っていなかったとしたら支払う必要があるであろうロイヤルティの割引現在価値により評価する方法)によって評価することが一般的です。本件特許のGoogleにとっての真の価値は将来の訴訟費用の削減にあると思われますが、公正価値を評価する場合にはGoogle固有の事情は考慮しない(一般的な市場参加者を想定)ことになっているので、公正価値は小さめに出てしまうかもしれません。その分、買収対価との差額であるのれんの金額が大きくなってしまうのですが、アンドロイド事業で利益が出ているうちは、減損ということにはならないでしょう。

というわけで、CNETの記事では「55億ドルの価値しかない特許を買うのに124億ドルも払った!」という論調になっていますが、必ずしもそういうわけではなく「とにかく買うためには124億ドルが必要だった。会計ルールに沿って評価してみたら、特許の評価額は55億ドルということになった。」ということです。PPAの結果は、取引価格ではなく公正価値なので、その点で注意が必要です。

ちなみに、Googleは2012年の上半期にMotorola以外に24件の企業買収/無形資産取得を行なっています。また、6か月間に取得した特許等の使用可能期間は加重平均で9.0年、顧客関係は7.5年、商品表示等は9.3年となっています。

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(当初、内訳の数字に誤りがあったため修正しました。7/27 21:52)


Europe Asia Patent and Patent Information Conference (EAP2IC)

Intellectual Asset Management の Blog に載っていた EAP2IC の内容が気になったのでメモ。

第10回のEAP2ICは7月13日にシンガポールで開催。主催はEPO、WIPOおよびIPOS(シンガポール知的財産庁)で、今回のテーマは "IP: The New Currency" (知的財産:新しい通貨)。携帯電話業界を中心に、巨額の特許買収案件が相次いだことが背景にあるのでしょう。

アジアを中心にマーケットエクスパンションサービスを提供するスイス企業、DKSHグループのグローバル・テクノロジー部門ヘッド、Dr. Adrian Eberleによると、DKSHはドイツの知財管理会社であるPATEV社と組んで、知的財産取引業務に参入したとのこと。

また、シリコンバレーの知財専門投資銀行、Inflexion Point Strategy のManaging Director、Ron Laurieはメリルリンチと一緒に仕事をしているが、これは2年前には考えられなかったとのこと。

PATEVのCEO、Dr. Edelbert Häfeleは、主要なグローバル企業のChief IP Officerが法律家以外から選ばれることが増えていると指摘。Dr. Eyal Bressler&Co.のリーガル部門トップのNeil Wilkofも教育関係の仕事がロースクールからビジネススクールにシフトしているとコメント。

しかし、もし知財が通貨だとしたら、誰がその交換レートを決めるのか?どうやって特許やその他の無形資産を価格付けするのかについては、多くの講演者が言及した。そのうち、キーノート・スピーチに立ったドイツの法律事務所、Boehmert & BoehmertのパートナーであるHeinz Goddarは、特許の価値評価を会計士に委ねる危険性について、冗談めかして「彼らは "patent" と綴ることさえほとんどできない」と語った。

ノーテルの案件やモトローラの案件については多くの専門家がアノマリーであるとの見解で一致。これらの案件に関心を取られすぎるのは良くない。ほとんどの特許取引はもっともっと小規模であるうえ、非公開の取引であることに留意。

特許が通貨のように扱われてきているのは間違いないですが、その価値評価手法はグローバルでもまだ試行錯誤が続いているのが現状のようです。IAMのブログでも "While valuing patents may not be an easy task, it is not impossible"とのこと。知財価値評価には、法律の知識と会計の知識が両方必要でしょう。

あと、EPOはGoogleと組んで特許文献に特化した自動翻訳プロジェクトを進めており、Patent Translateをたちあげています。人間の翻訳には及ばないものの、審査には十分使えるレベルとのこと。現状、ヨーロッパ言語間相互の翻訳ですが、当然、中国語、日本語、韓国語への対応が視野に入っているとのこと。これが導入されたら日本国特許庁の中国文献翻訳プロジェクトは要らなくなるかもしれません。

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イノベーション創出セミナー 第一回 @新丸ビル [valuation]

一昨日ですが、のこのこと新丸ビルまで出かけて、SFC主催、IV共催のセミナーに参加してきました。

・パネルディスカッション

パネリスト

【起業家:イノベーター登壇者】

AISSY株式会社 代表取締役社長  鈴木隆一氏

TechnoProducer株式会社 取締役  楠浦崇央氏

Collaboyou.LLP代表執行役 梅嶋真樹

(慶應義塾大学大学院政策メディア研究科 特任講師

【投資家・インキュベータ:イノベーター支援登壇者】

インテレクチュアル・ベンチャーズ  平手純司

SFCインキュベーションマネージャー  廣川克也

コーディネータ  慶應義塾大学総合政策学部長 國領二郎

主催|慶應義塾大学SFC研究所プラットフォームデザインラボ

共催|インテレクチュアル・ベンチャーズ

協力|慶應藤沢イノベーションビレッジ

全4回シリーズのセミナーの第一回。全体的なテーマは「いかにイノベーションを生み出すか」で、今回は成功事例についてのディスカッション。

いろいろと話しはあったのですが、AISSY(ところで、これをアイシーと読ませるのはちょっと無理。)の鈴木社長の発言が印象に残りました。例えば「技術をやっている人がビジネスに興味を持って欲しい」「大企業は運営が民主的なので、無難なものしか作れない。尖った技術は出てこない。」との意見は大いに共感できました。イノベーション創出とはそれまでの常識の否定が求められるので、合理的な反対意見がたくさん出てきます。それを押し切るだけの思い込みを持たないとイノベーターにはなれないのでしょう。また、どんな優れた技術でも使われなければ価値を生み出すことはありません。仮に特許を取得できたとしても、その特許が実施されなければ価値はゼロです。技術者は「世界を変える」との思いでマーケティングや契約といったことにも興味を持って欲しいです。

他方、会場の方からでていた「大学にはシーズがあるが、それをニーズに結びつける目利きが必要だ」との話は、正直また「目利き」かという印象です。イノベーションの話では必ず出てくるこの目利き必要論なのですが、こんな神様みたいは人はいない、というところから議論を出発させなければいけないと思います。目利きがいないからイノベーションが起きないということではなくて、イノベーターは「これで世の中を変えたい」という思いに突き動かされているのだと思います。イノベーターは「目利き」ではなく信念の人であり、そのような人を応援、支援する仕組みがイノベーションを促進するのです。

あと、大企業の役割が話題に上がっていましたが、これについては梅嶋さんの「どんどんベンチャーを買って欲しい」という意見が良かったです。これも、買い取るには目利きが必要だ、などという話になりがちなのですが、限られた研究開発費で最大の効果を得るためには、社内に世界最高のものがすべて揃っているのでなければ、社外の知恵も活用するのが合理的です。大企業は、民主的かつ合理的な意思決定によって、毎年一定額は社外の技術を獲得するという方針を決定して欲しいです。

どうすればイノベーションが生まれるか、についてはもちろん結論は出ないのですが、國領さんが種を蒔き続けたSFCは起業マインドの醸成機関として着実に成果を出してきていると感じました。身近に企業した人がいることが、企業へのハードルを下げる一番の要因だと感じます。SFCは、スタンフォードとはまた違う日本のベンチャー育成装置として今後も楽しみです。

ところで、本セミナーはインテレクチュアル・ベンチャーズ社が共催で、冒頭ではあの加藤様が日本総代表として挨拶されていました。その事業運営について評価が別れる同社ですが、セミナーの席上では良くも悪くも話題には出ませんでした。日本ではまだまだ知られていないのかもしれません。


地域団体商標の状況 [valuation]

いわゆる地域ブランドを商標法によって保護するために、今から6年あまり前の2006年4月1日から地域団体商標制度が導入されました。

それまでは、すでに全国的な知名度を獲得しているブランド名(例:夕張メロン)でなければ、「地名+商品名」という商標について商標登録を受けることができなかったのですが、地域団体商標制度の導入によって一定範囲の需要者(例えば、隣接都道府県に及ぶ程度の需要者)に認識されていれば、「地名+商品名」で登録を受けることが可能になったのです。

現在(2012年7月6日まで)のところ、約1000件の出願があり、そのうち約500件が地域団体商標として登録されています。特許庁のウェブサイトには「高い関心を集めています。」と書いてありますが、年度別の出願件数の推移を見ると、初年度の2006年度に698件と大量の出願があった後は、2007年度110件、2008年度71件、2009年度54件、2010年度48件、2011年度31件と残念ながら毎年着実にその数を減らしてきています。どうやら「高い関心」は薄れてきているようです。

出願減少の理由については推測の域を出ませんが、地域団体商標の出願主体は農協等の組合に限られているうえ、不当に構成員たる資格を有する者の加入制限をしてはならないなどの要件もあるので、なかなか出願までに至らない場合も多いものと思われます。また、複数の団体が同じブランド名を使用している場合にはどちらも単独では登録できないので、地元をまとめる事ができない場合もありそうです。

また、登録したからといって、急に知名度が上がったり売上が上がったりするわけではないので、導入初年度にはあわてて登録してみたものの、それ以降はあまり積極的には取り組んでいないところが多いのかもしれません。仮に登録しなくても、地域ブランドというものの性質上、他の人に先取りされてしまうということも考えにくいため、登録のメリットが見えにくいことも登録減少の理由の一つかもしれません。

とはいえ、地域ブランドを商標登録すると組合員の中ではそのブランド名を大事にしようという気持ちが出てくるのは間違いないと思いますし、実際にだんだん知名度が上がってきて、他人が紛らわしい商標を使い始めた時にこそ登録の効果が発揮されるので、もっともっと利用されてもいい制度だと思います。

というわけで、自分の地元北海道の登録状況を見てみると、以下のとおりわずか19件しか登録されていません。道東地域の登録が目立つ中、道南からは全く登録がないのはどうしたんでしょうか。函館を含む道南地域にも特産品はたくさんあるので、ガゴメ昆布などは登録されているのかと期待していましたが、まさかゼロとは。特許庁では無料で制度説明の講師派遣を行なっているので、地元関係者のかたは一度コンタクトを取ってみてはいかがでしょうか。


商標よみがな出願人
1十勝川西長いも (とかちかわにしながいも)帯広市川西農業協同組合 
2鵡川ししゃも (むかわししゃも) 鵡川漁業協同組合
3豊浦いちご (とようらいちご)とうや湖農業協同組合
4はぼまい昆布しょうゆ (はぼまいこんぶしょうゆ)歯舞漁業協同組合 
5大正メークイン (たいしょうめーくいん)帯広大正農業協同組合 
6大正長いも (たいしょうながいも)帯広大正農業協同組合
7大正だいこん (たいしょうだいこん)帯広大正農業協同組合
8苫小牧産ほっき貝 (とまこまいさんほっきがい)苫小牧漁業協同組合 
9幌加内そば (ほろかないそば) きたそらち農業協同組合 
10虎杖浜たらこ (こじょうはまたらこ) 胆振水産加工業協同組合
11ほべつメロン (ほべつめろん) とまこまい広域農業協同組合
12十勝川温泉(とかちがわおんせん)十勝川温泉旅館協同組合
13めむろごぼう(めむろごぼう)芽室町農業協同組合
14めむろメークイン(めむろめーくいん) 芽室町農業協同組合
15大黒さんま(だいこくさんま) 厚岸漁業協同組合
16十勝和牛(とかちわぎゅう) ホクレン農業協同組合連合会
17北海道味噌(ほっかいどうみそ)北海道味噌醤油工業協同組合
18東川米(ひがしかわまい)東川町農業協同組合
19びらとりトマト(びらとりとまと)平取町農業協同組合

IPXI Market Rulebook [valuation]

Intellectual Property Exchange International (IPXI) について、"Market Rulebook" のWorking Edition 1.0 を入手したので、その内容についてメモ。(Version 1.0 April 26, 2012)

取引が開始されるまで

  1. 保有する特許をライセンスしたい会社(スポンサー)が、IPXIの会員になる。
  2. Selection Committeeによる対象特許上場の提案を、Executive Committeeが許可する。
  3. IPXIは発行体となるSPVを設立し、スポンサーはSPCに対象特許に関する権利を移転、もしくはライセンスを許諾する。

 

ルールブックの内容

  1. IPXIは、非独占的なライセンス権を標準的な条件のもとで、市場ベースでの価格決定により取引を行う(100 Introduction)
  2. IPXIは、商品先物取引委員会(CFTC)や証券取引委員会(SEC)といった政府機関に登録されたものではなく、証券取引法等に基づく取引所でもない。(101 Regulatory Status)
  3. 取引所の意思決定機関を構成する委員会は、Executive Committeeおよびその他の委員会であり、その他の委員会としては、Rules Committee(規則委員会)、Selection Committee(選定委員会)、Business Conduct Committee(業務委員会)、Enforcement Committee(権利行使委員会)、Market Operations Committee(市場委員会)がある。(201 Executive Committee、202 Other Exchange Committee)
  4. Executive Committeeは、IPXIのCEOを含む3名の取引所会員で構成され、委員長はIPXIの取締役会で選ばれる。
  5. Executive Committeeは、CEOへの助言、他の委員会の設置、他の委員会からの提案の採用、会員に適用されるルールの設定、などの権限を有する。また、他の委員会の委員の選任、解任ができる。
  6. 規則委員会は、ルールブックの修正をExecutive Committeeに提案することを目的とする。
  7. 規則委員会は、当初の3年間は、各創立会員からの代表者によって構成される。これらの委員の任期については、特段の定めなし。その他の委員については任期1年で再任可。
  8. 選定委員会は、新規上場案件をExecutive Committee に提案することを目的とする。
  9. 選定委員会は、当初は5名の取引所会員の代表者で構成される。任期は1年で再任可。
  10. 選定委員会は、新規上場案件について、過去のライセンス状況、想定市場規模、障害・制限、過去の争訟、対象権利に対する市場ニーズ、などを考慮してOffering Scenario Document ("OS Document")を作成して、Executive Committeeに提案する。
  11. 業務委員会は、ルールからの逸脱の監視、調査、ルール違反に関する苦情の受付および審査、Executive Committeeへの制裁措置の提案を行う。
  12. 業務委員会は、当初は5名の取引所会員の代表者で構成される。任期は1年で再任可。
  13. 権利行使委員会は、会員からの権利侵害に関する申請に基づき、申請の内容を審査し必要に応じてExecutive Committeeに対して、権利行使の提案を行う。
  14. 選定委員会は、当初は5名の取引所会員の代表者で構成される。任期は1年で再任可。
  15. 市場委員会は、市場取引を監視し、市場のパフォーマンスと流動性を引き上げるとともに、価格の混乱を避けるために必要となる措置を発見する。
  16. 市場委員会は、5名以上の取引所会員の代表者で構成される。任期は1年で再任可。
  17. IPXIは、親会社取締役会の許可を得て、手数料を定める。手数料は、processing fees(プロセス手数料)、membership fees(会員費)、trading fees(取引手数料)などである。会員費の引き上げについては、一般に公開される。(年会費は5000ドル)
  18. 取引所の会員は、IPXIやその親会社、関係会社について何らの所有権も有しない。会員資格は譲渡不可。

New gTLD: 今後の手続き [valuation]

新しい一般トップ・レベル・ドメイン(new gTLD: generic Top Level Domain)の申請期間が終了し、6月13日にICANNから申請のあった全リストが公表されました。

今後は、これらの申請について、一般からのコメントあるいは反論を受け付ける期間となります。自らはドメイン申請を行わかった多くの企業・団体にとっては、自分たちの利益を守るための活動はまさにここからスタートすることになります。

「コメント」というのは、公式は申請に対する公式な反論ではないため、それ自身によって申請がブロックされることはありませんが、登録審査の過程で参考資料とされるもので、誰でもコメントを作成することができるようになっています。

コメントの受付期間は2012年6月13日から8月12日までの2か月間で、既に現時点(6月26日)で164件のコメントが一般に公開されています。(リンク

"ART"、"BIBLE"、"CHURCH"、"PATAGONIA"といった文字列について多数のコメントが見られます。このうち、"PATAGONIA"については、アウトドアウェアのパタゴニア社が申請しているのですが、コメントを見ると「地理的表示」である、アルゼンチンの一部である、などとあります。他方、今のところ、"TOKYO"や"OSAKA"についてはコメントは寄せられていません。

"APPLE"(アップル社)について、普通名詞なので不可とのコメントも見られます。同様のコメントが"VIDEO"(アマゾン社)についても見られます。”BOOK"(アマゾン社)について、".book"は".com"と同じように使われるべきで独占の対象ではない、とのコメントがあります。

さて、コメントは誰でもなんでも自由に言える掲示板のようなものですが、本気でドメイン登録を止めようと思ったら公式な反論(Objection)をしなければいけません。 反論は以下の4つの類型のいずれかに該当している必要があります。

反論の類型
Objection ground 
理由
Standing to object 
反論できる人
Who has standing 
紛争処理機関
DRSP 
String Confusion

申請されているドメイン名が既存のTLDまたは今回申請されているTLDと類似していて紛らわしい。

類似している既存TLDの運営者または新規TLD申請者ICDR
Legal Rights申請されているドメイン名が既存の法的権利を侵害する。法的権利を有する人(例:商標権者)WIPO
Limited Public Ieterest申請されているドメイン名が公序良俗に反する。誰でもICC
Community申請されているドメイン名が既存の団体を連想させる。申請されているドメイン名によって連想される団体ICC

これら4つの類型のうち、多くの企業にとって関心があるのは、2番めの"Legal Rights Objection"だと思います。これは、典型的には他人が申請しているドメイン名が自社のブランド名と同じあるいは類似した文字列となっている場合が該当することになります。紛争処理機関は弁理士にとってはおなじみのWIPOです。

さて、公開されている申請ドメイン名リスト(全1,930件)のなかに自社ブランドと抵触しそうなものを見つけたら、さっそくWIPOに反論を提出、といきたいところですが、この紛争処理手続には所定の費用がかかります。紛争処理に当たっては、1人または(両社が合意すれば)3人の専門家によるパネルが設置されることになっており、1人パネルの場合には1万ドル(DRSP費用 2千ドル、パネル費用 8千ドル)、3人パネルの場合には2万3千ドル(DRSP費用 3千ドル、パネル費用 2万ドル)となかなかお高い料金表となっています。なお、同一の申請ドメイン名に対して複数の反論がある場合にはパネル費用は前記の60%、また単独で複数のドメイン名に対して反論を出す場合には同80%にディスカウントされます。

それにしても、最低1万ドル(+反論文書作成のための弁護士・弁理士費用等)がかかることを考えると簡単には仕掛けられないとは思います。ですが、例えば"BEER"や"FILM"といったドメイン名が申請されており、これらがそのまま登録されると "kirin.beer"とか"fuji.film"といったURLが可能となるため、やはり反論を出しておくべきではないかと思われます。

反論提出期間はICANNによると「約7か月」ということなので年内一杯は検討する時間があります。グローバルに活動している企業においては、申請ドメイン名リストを見た上で、反論を出す、出さないについて社内で検討されてはいかがでしょうか。


IPXIで取引されるULRとは [valuation]

国際知的財産取引所(IPXI: The Intellectual Property Exchange International, Inc.)では、特許権そのものではなくULR (Unit License Right)契約といわれるライセンス権契約が取引される予定になっています。

通常のライセンス契約では、契約→生産・販売→ロイヤルティ支払というように、契約した後に売上高や生産個数に応じてロイヤルティ支払金額が決まってくる(ポストペイド)のに対して、ULR契約では最初に必要な分(例えば1万個分)のライセンスを(IPXIにおける売買という形で)購入する(プリペイド)ことになります。購入したライセンスは使いきりとなります。また、未使用分はIPXIのセカンダリーマーケットにおいて売却することが可能になる予定です。

サンプルでは、ある特許について全部で5千万個のライセンス枠が用意され、この枠がA、B,Cの3つのトランシェに分けられています。最初の1千万個までがトランシェAで価格は1個あたり0.5ドル、次の1千万個がトランシェBで0.75ドル、残りの3千万個がトランシェCで価格は1個あたり1.0ドルとなっています。つまり、同じライセンスでも需要が大きい場合にはその価格が上がる仕組みになっています。

セカンダリーマーケットの例では、上記のライセンス枠について、トランシェAが全て売れて、トランシェBについては1千万個のうち250万個が市場に出ている状況が想定されています。1個あたり0.5ドルでは売り切れたものの、0.75ドルでは売れ残りが出たという状況です。このため、トランシェAについては、セカンダリーマーケットで買い0.625ドル、売り0.630ドルの注文がそれぞれあるという想定になっています。トランシェAを0.5ドルで購入した人は、ライセンスを使って対象特許を実施することのほかに、ライセンスを使用せずに市場で売却して利益を確定させることも可能となります。

ULR契約の内容は標準化されているため、当事者間におけるライセンス交渉というのはなく、あらかじめ設定された条件でライセンスを受けるか(ULR契約を買うか)どうかという判断になります。

気になるのは、果たしてIPXIで取引される特許案件が出てくるかどうかなのですが、創立会員(企業)6社、創立会員(大学)5大学および創立会員(研究所)3機関は、それぞれ会員になってから12ヶ月以内に取引対象となる特許を持ち込むことになっていますので、取引所を作ったけれども上場銘柄がないという某AIMのようなことにはならないようです。

特許権を市場に出す側(Sponcer)としては、誰にその技術を使われるか分からないといった不安は避けられないと思いますが、相対では経済的に見合わない多数の相手方からロイヤルティを受け取れるというのは、知的財産の収益化という観点からは魅力的です。

実施権の買い手としては、面倒な交渉なしでライセンスがリーズナブルな価格で調達できる、必要な分だけ買うことができるといったメリットがあります。中小企業でも大企業でも同じ条件が適用されます。更には、未使用分は売却することも可能となる予定です。

ただし、今のところ、マーケットの参加者はIPXIのメンバーに限られているので、セカンダリーマーケットを成立させるためにはもっと幅広い多数の投資家をメンバーに迎え入れる必要がありそうです。

(IPXIおよびULRは登録商標です。)


IPXI: Intellectual Property Exchange International, Inc. 国際知的財産取引所について [valuation]

シカゴ・オプション取引所(CBOE)、フィリップス(オランダ)、ラトガース大学(ニュージャージー州)、ノースウエスタン大学(イリノイ州)およびユタ大学(ユタ州)の5組織が創立会員(founding member)。

その後、会員が増加し、現在の会員は以下の27組織。

創立会員(企業) Founding Member - Corporate

  • Philips Intellectual Property & Standards (エレクトロニクス)
  • Com-Pac International (パッケージ)
  • MetaPower, Inc (コンサルティング)
  • Ford Global Technologies, LLC (自動車)
  • Sony USA (エレクトロニクス)

創立会員(大学)Founding Member - University

  • Rutgers University
  • Northwestern University
  • University of Utah
  • University of Notre Dame
  • Regents University of California

創立会員(研究所) Founding Member - Laboratory

 

  • Lawrence Livermore National Laboratory
  • Pacific Northwest National Laboratory
  • Brookhaven National Laboratory

 

一般会員 Regular Member

 

  • Caisse des Dépôts et Consignations (フランスの公的投資機関)
  • University of Chicago

 

賛助会員 Associate Member

  • DeWitt, Ross & Stevens S.C. (ウィスコンシン州にある法律事務所)
  • Ocean Tomo, LLC (2008年にIPXIを設立。本社シカゴ)
  • Article One Partners (米国の特許調査会社)
  • North Point Advisors, LLC (サンフランシスコのM&Aアドバイザリー)
  • DLA Piper (グローバル法律事務所。東京事務所あり)
  • Red Chalk Group (シカゴ本社の知財コンサルティング。東京事務所あり)
  • Innography (知財関連調査ソフトウェア開発。テキサス州オースティン)
  • Marsh, Inc. (保険ブローカー)
  • Nordic Patent Institute (デンマーク、アイスランドおよびノルウェーによる政府間機関)
  • Pantros IP (特許分析ソフトウェア開発。カリフォルニア州サクラメント)
  • Sullivan & Cromwell, LLP (グローバル法律事務所。東京事務所あり)
  • TAEUS International Corporation (特許評価サービス。コロラド州)


新しいgTLDの申請内容 [valuation]

ICANNが実施していた新しいトップレベルドメイン(New gTLD)の募集がこのほど締め切られて応募の詳細が公表されました。(リンク

全部で1,930件の応募があり、そのうち北米から911件、ヨーロッパから675件、アジア・パシフィックからは303件となっています。

全体を概観したコメントは既にいろいろとでているので(これとか、これとか、これとか)、ここでは公表されているロケーションが"JP"のものについて見ていきます。

ロケーションが"JP"となっているものは全部で71件(末尾に一覧あり)で、主に企業名(ブリヂストン、ブラザー等)です。ブリヂストンは「普利司通」という国際ドメイン名(IDN: International Domain Name)も出しています。GREEはありますがDeNAはなし、ABLEやCHINTAIはありますがリハウスはありません。金融系では日本生命がNISSAY"を出してますが、その他の銀行、証券、保険はいずれもなし。ちなみに、JP以外では"CITI"(シティグループ)、"BARCLAYS"(バークレイズ)などが出ています。ぱっとみてわからないのは田辺三菱製薬の"MTPC"などがあります。"MITSUBISHI"は三菱商事が出していますが他の三菱系の会社さんはいいんでしょうか。なお、三井や住友はありません。

企業名以外では、DATSUN(日産)、FIRESTONE(ブリヂストン)、GGEE(GMOインターネット)、GOO(NTTレゾナント、ただしGoogleと競合)INFINITI(日産)、LEXUS(トヨタ)、LIXIL(住生活グループ)NICO(ドワンゴ)、PLAYSTATION(ソニー・コンピュータエンタテインメント)など主要なブランドで申請があります。ヨドバシカメラのGOLDPOINTというのはやや変わってます。相当大事な名前と考えているようです。なお、XPERIAはスウェーデンのSony MobileがApplicantとなっているのでJPには含まれていません。

その他で目立つのは、GMOドメインレジストリがINC、MAIL、SHOPといった属性ドメイン名や、NAGOYA、OSAKA、TOKYO、YOKOHAMAという地名ドメインを複数出しているのが目立ちます。これは当然レジストリサービス目的と思われますが、INCは".com"に類似しているためか競合が11社もある屈指の人気ドメイン名となっているほか、MAILとSHOPも同様に多数の競合があります。他方、TOKYO、NAGOYAは競合なし、OSAKAは同業のインターリンクとの2社だけとなっていて、意外にも地域名を申請したところは少ないようです。将来的に".tokyo"というドメイン名が人気になるんでしょうか。

地域名といえば、ビジネスラリアートがOKINAWAとRYUKYUを出しているのも目を引きます。国内では数少ないeduドメインホルダーである京都情報学園のKYOTOも異色です。

しかし、このような地域ドメイン名は、商標でいえば3条1項3号の産地を普通に表示するものなので、特定の個人や会社に使用を独占させるのは問題があるように思うのですが、ICANNではどうするつもりなのでしょうか。ちなみにICANNのリリースでは、1930件中"66 are geographic name applications."とあるので、地域ドメイン名の申請、取得は想定されているようです。

インターリンクはMOEを出していますがこれは「萌え」なのでしょうね。"www.nekomimi.moe"とか人気でるのでしょうか。

JP以外で目についたものをいくつかあげてみます。

DELOITTE、KPMG、PWCはありますが、EYは2文字のため申請しなかったようです。ACCENTURE、BCG、MCKINSEYはあります。

CPAなんですが、米国AICPAのほかにGoogleを含む6件が競合しています。どうしてGoogle(リリース文書中、Charleston Road RegistryとあるのがGoogleです)がCPAドメインを取りに来ているかというと、ここでいうCPAはCost Per Aquisitionでコンバージョン単価のことなんですね。詳しくはリンク先を見ていただくとして、GoogleのAdWordsの課金方式の一つということです。

AmazonとGoogleは、APP、BOOK、BUY、CLOUD、DEV、DRIVE、FREE、GAME、MAIL、MAP、MOVIE、MUSIC、PLAY、SHOP、SHOW、SPOT、STORE、TALK、YOUと多くのドメイン名で競合しています。

Microsoftは基本的に自社サービス名だけの出す方針のようで、結果としてGoogleとの競合になったのはDOCSとLIVEの2つだけでした。

フランスのロレアル(L'Oreal)は、BEAUTY、HAIR、MAKEUP、SALON、SKINなどを出していてかなり積極的です。

行政機関では、台北市がTAIPEIを、ニューサウスウェールズ州がSYDNEYを出しています。

保険会社では、AllstateがALLSTATE、AUTOINSURANCE、CARINSURANCEに加えてロードサービス名であるGOODHANDSを出しています。American International Groupは破綻したくせにしっかりAIGを出してます。

Yahoo!はYAHOOとFLICKRの2つのみのようです。

CORP、INC、LLC、LLP、LTDは予想通り人気ですね。ドイツの.com に相当するGMBHはGoogleを含む6社の競合です。

マクドナルドはMCDとMCDONALDSの2つ。これを見る限り「マック」よりも「マクド」の方が正統ですね。

国際ドメイン名では、Googleが「みんな」、「グーグル」を、Amazonが「アマゾン」、「クラウド」、「ストア」、「セール」、「ファッション」、「ポイント」、「家電」、「書籍」を出しています。

他にも面白い申請あると思いますが、2000件近いので見きれません。これはと思うものがありましたらコメントにて教えてください。

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ロケーションが "JP" となっているNew gTLD申請一覧


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