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知財ビジネス評価書 2016年度のまとめ

特許庁では、2014(平成26)年度から知財ビジネス評価書作成支援事業を行っています。

この事業は、


ロームがカナダのNPEであるWi-LANに半導体パッケージの特許を譲渡

また一社、日本の会社が特許のマネタイズに一歩踏み出しました。

今度は、京都の半導体メーカー、ロームが特許権の一部をWi-LAN社に譲渡しました。


ニュースリリースによると、ロームが半導体パッケージング関連の特許権ポートフォリオの完全な所有権("full ownership")をWi-LAN社の100%子会社に譲渡したとのことです。
ローム社の高須常務は「Wi-LAN社との事業を歓迎する。同社のライセンス事業に関する専門性とR&D活動へのコミットメントが鍵となった。」とのコメントを寄せています。

Wi-LAN社は、カナダの会社で、特許のライセンス事業を専門に営んでいる会社(平たく言うとパテントトロール)です。同社は、昨年12月にパナソニックから900件超の特許(および特許出願)を譲り受け、今年10月には同社から自動販売機関連の特許を譲り受けるなど、日本の企業との関連を強めています。


なお、今回のロームおよび過去2回のパナソニックは、いずれも特許の譲渡に関するニュースリリースは出していません。やはり、まだまだ世間的には特許の譲渡はタブーであるようで、積極的に特許権のマネタイズを行っているということは知らせたくない姿勢が現れています。

特許のライセンス事業の是非を巡っては、否定的な見方が強いのが実状ですが、営利企業がその保有する資産を最大限に活用しようとすることは当然のことです。むしろ、売却可能な資産を売却せずにその価値を顕在化させないことの方が問題であるかもしれません。かつて、AOLは株主から強制される形でその特許権をマイクロソフトに譲渡し、売却で得た資金をそのまま株主に配当しました。
特許が売却可能な資産であるとの見方が投資家の間に浸透してくると、日本企業の特許に対する考え方も変わってくる、また変わらざるを得ないものと思います。
(実質国営のルネサスがAcaciaとパートナーシップを強めているところを見ると、もうタブーはないのかも知れません)

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(4/28 日経夕刊)日本企業の休眠特許活用 米大手、売却元に収入分配

4月28日の日経夕刊に、アカシア・リサーチが日本企業の抱える休眠特許の活用に乗り出す、との記事が掲載されました。

アカシアについては「米ナスダックに上場しており、(中略)200社以上から特許を取得し、ライセンス契約実績も1300件を超すなど豊富な運用経験を持つ」と紹介されており、好意的な書きぶりです。

しかし、このアカシアという会社は、いわゆるパテント・トロールとして有名な会社です。

米RPX社の「2013 NPE Litigation Report」(PDF: 2.3MB)によると、アカシアは2013年に最も多くの訴訟を提起したNPEであり、その数は実に239件となっています。毎週4件以上のペースで裁判を起こしているということです。

日本企業との関係では、アカシアのウェブサイトに株式会社ACCESSが同社の協力を得て、マイクロソフト、サムスン、アップルとライセンス契約を締結することに成功した事例が紹介されています。

また、日本人技術者でアカシアで活躍している方もでてきました。昨年11月にシンガポールで開催された IP Business Congress Asia 2013 では Mr. Hiro Seki という日本人がスピーカーとして登壇しています。この方は、もともと日立の社員で、アカシアに移る直前はルネサスの知的財産権統括部の部長であったようです。お名前からすると、登録番号10033番で弁理士資格もお持ちのようです。

日本企業は多数の特許を取得しているものの、防衛目的で使用する予定がないものや、単に件数を増やす目的で取得しているものもあり、また最近では事業撤退に伴って自社で使用しなくなっている特許も抱えており、それらの有効活用が課題となっています。

今月には、携帯電話事業から撤退したNECが、いまや世界一のPCメーカーとなったLenovo社にモバイル関連の特許3,800件を売却、という発表がありました。(売却額は非公表ながら1億ドル程度とのこと)

少し前になりますが、昨年12月にはPanasonicもカナダのNPEである Wi-Lan社に900件あまりの特許を売却しています。

パテント・トロールについては、そもそもその名称からして悪意がある(そのため中立的にはNPEと呼びます)のですが、夕刊とは言え日経の一面にアカシア・リサーチが好意的に取り上げられるというのは、今後、日本のメーカーが特許を外部に売却することが認められていく兆しなのかもしれません。

他方、文部科学省は国内の大学に対して「大学等は権利譲渡を申し出た第三者が、自ら事業をせず他の事業者に対し法外な対価を要求して権利行使することを専ら業とする者等でないことを確認することが必要である」として、NPEなどに特許を売却しないよう求めており(イノベーション創出に向けた大学等の知的財産の活用方策)、大学保有特許の活用には制約がかけられています。

お金を出してまで買ってくれる第三者があるということは、その特許発明を実施している者がいることが想定されるので、大学がアカシアのようなNPEと協力してライセンス契約を企業に迫るということがあってもいいように思いますが、どうやらそのような行動はお行儀が悪いこととされているようです。

日本では、知的財産創造サイクルは、創造→保護→活用を回していくとよく言われますが、「権利行使」という重要なアクションが抜け落ちています。権利行使がない権利はタダ乗りされてしまいます。事実、大学のように積極的に権利行使しない(できない)主体が保有している特許権については、侵害者のやり得になっているのではないでしょうか。そういう場合に、自ら権利行使することが出来ないのであれば、第三者に売却してその第三者に権利行使してもらうという選択肢は留保すべきでしょう。

シンガポールの IP HUB MASTER PLAN (PDF: 1.5MB) では、Creation(創造)→Protection(保護)→Exploitation の次にEnforcement (権利行使)がしっかりと位置づけられています。特許権があれば避けてくれるだろう、という性善説から脱却し、権利行使によって自らの権利の価値を高めるという行動が求められています。


地理的表示(GI)の保護に関する法案が提出されました

先週末(4月25日)に農林水産省より「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律案」が国会に提出されました(参議院のサイトでは衆先議となっています)。

この法律はいわゆる地理的表示(GI: Geographical Indication)を地域の知的財産として登録する制度を創設することにより、生産者利益と需要者利益を保護することを目指しています(概要)。

地理的表示(GI)というのは、

  1. ある商品が、特定の場所、地域または国を生産地とするもので、
  2. その品質や社会的評価といった特性が主にその生産地に関連している場合に、
  3. その商品に付されるその生産地を特定する表示

のことです。例えば、「カマンベール・ドゥ・ノルマンディー」というフランスのチーズは、

「どっしりとしたなめらかな円柱形、表面は薄く白カビで覆われており、軽い塩味とフルーティな食味、独特の芳香」といった特性と、

「ノルマンディー地方で飼育されたノルマンディー種の生乳を50%以上使ったチーズで、19世紀以来の伝統的な製法で作られたもの」という地域との結びつき、

を有しており、これを満たさないチーズは「カマンベール・ドゥ・ノルマンディー」という名称をつけることができません。

同じように「プロシュート・ディ・パルマ」というイタリアの生ハムは、

「パルマ地方の豚もも肉と塩のみを原料とした生ハムで、色はピンク色〜赤色、繊細でまろやかな甘味と軽い塩味、独特の香り」という特性と、

「パルマの丘陵付近で生産された生ハムのみが王冠型の焼き印を受けられる。アペニン山脈から丘陵に吹くそよ風が空気を乾燥させ、伝統的な製法で生ハムの製造を可能にしてきた」とうい地域との結びつき、

を有しています。

このような生産地と品質(特性)に不可分の結びつきがある農林水産物について、その名称(=地理的表示)を国に登録することにより、その名称を保護するとともに、国が一定の特性を保証し、フリーライドや模倣品を排除することが地理的表示保護制度の目的です。

同じような制度には、商標法に基づく地域団体商標(いわゆる「地域ブランド」)がありますが、今回の地理的表示保護制度は、対象となる農林水産物の特性(=品質)を国が保証するというところが大きな違いになっています。

つまり、不正な表示がなされた場合には、国が直接取り締まる(措置命令)こととなっていて、これに従わないと刑事罰という仕組みです。生産者団体は生産工程管理業務を行いますが、不正を発見した場合には一般の人と同じように国に通報して取り締まってもらうことになります。

また、地域団体商標は実質的に農業協同組合等のみが登録を受けることができる制度となっていましたが、今回の地理的表示の保護は生産者団体であれば法人格のない地域のブランド協議会等でも登録を受けることができることになっています。登録を受けた生産者団体に権利が帰属する仕組みではないからです。

登録の実務については、省令に委任されている部分もあるため詳細はまだ分かりませんが、地理的表示(=農林水産物の名称)が既存の登録商標と同一または類似の場合には登録拒否とされているため、我田引水的には弁理士の出番もありそうです。

今後の国会審議を注目していきます。


日本の特許事務所が知的財産国際取引所(IPXI)のメンバーに加入

世界初の知的財産取引所の知的財産国際取引所(IPXI)では、いよいよ明日(6月5日)最初のULR取引開始に向けた詳細が明らかになります。

IPXI to Announce First Offering on June 5 Public Webinar

これに先立つ5月28日に、IPXIは新たに4つの団体がIPXIのメンバーに加入したことを発表しました。そして、そのうちの一つは日本の特許事務所である「正林国際特許商標事務所」です。

ニュースリリースでは、以下のように紹介されています。

Shobayashi International Patent & Trademark Office is the first Japanese patent law firm to join IPXI.  The firm provides tailored IP preservation services in a variety of fields including chemical, biotechnology, pharmaceutical, mechanical, optical, electrical, information technology, trademarks and litigation.

メンバーシップフィーがいくらなのか気になるところですが、いつもながら新しいことに積極的に取り組んでいく姿勢は見習うべきものがあります。(紹介文中の "Preservation" は「保護」の翻訳なのでしょうが、意味としては「権利取得」なので誤訳に近いですね。)

日本企業からは、ソニーアメリカ、パナソニックIPアメリカのほか太陽誘電がメンバーになっています。明日の初物はフィリップスの特許権に関する実施権ですが、近いうちにこれらの会社からもIPXIで取引されるライセンス権が出てくることになっており、引き続き注目していきます。


パナソニックがIPXIに参加:「知的財産権活用プロジェクト」積極推進中

2月22日付けのIPXIのリリースで、パナソニックが特許ライセンス権の市場取引を
目指しているIPXIのCorporate Member になったことが公表されました。
これは、昨年末に報道された、保有特許の資金化が具体的な形となってあらわれて
きたものと思われます。
シャープの特許はもうすべて工場財団に入ってしまって個別に売却することは難しい
ようですが、パナソニックはそこまで追い込まれてはいないので、汐留ビルを売却
したり大阪京橋ビルの賃借契約を解約したりで、全社を挙げて金策に忙しくしている
ようです。

エリクソンの特許売却について(その1)

日本ではあまり大きく報じられませんでしたが、今月の10日に、エリクソン (NASDAQ:ERIC) がアンワイヤード・プラネット(NASDAQ: UPIP)に2000件あまりの特許ポートフォリオを譲渡することで合意した、とのニュース・リリースがありました。

売り手のエリクソンについては、昨年までソニーと合弁会社で携帯電話事業を行なっていた会社です。スウェーデンのストックホルムに本社がある、従業員10.9万人(2012年9月末)、2012年7-9月期の売上高81億USドル、保有特許数3万件という巨大通信企業です。

他方、買い手であるアンワイヤード・プラネットについては、あまり聞いたことがない会社という人が多いと思います。保有特許数は出願中のものも合わせて2百数十件というエリクソンに比べるとごくごく小さい会社です。この会社は、昨年の4月にソフトウェア事業を外部のPEファンドである「マーリン・エクイティ」に売却するまでは、モバイル関連ソフトウェア事業を行っており、auやSBの携帯電話にモバイル・ブラウザを提供していたので、下記のロゴに見覚えのある人は多いと思います。

ソフトウェア事業の売却に伴い、この会社はそれまでの「オープンウェーブ・システムズ」から現社名の「アンワイヤード・プラネット」に社名変更し、事業内容も「保有特許の活用による収益獲得」に特化したため、2012年4-6月期、7−9月期ともに売上高は実質的にゼロとなっています。

具体的な事業活動としては、(1)2011年8月にアップル社とリサーチ・イン・モーション(ブラックベリー事業をやっている会社)を特許侵害でITCおよびデラウェア州連邦地裁に提訴(ITCへの提訴については、2012年10月に取下げ)、(2)2012年にアップル社とグーグル社を特許侵害でネバダ州地裁に提訴、の2件を手がけています。

上記のような状況であるため、アンワイヤード・プラネットは「パテント・トロール」というありがたくない名前で呼ばれています(記事1記事2)。パテント・トロールというのは、自社では研究・開発等は行わず、もっぱら外部から買い集めてきた特許を積極的に活用して、他社からライセンス収入を得たり、訴訟を行って賠償金を得ることを主要な事業として行う会社の蔑称です。上品な言い方としては、Non-Practicing Entity (特許を実施しない事業体; NPE)またはPatent Assertion Entity (特許主張事業体; PAE)などがあります。

そんな(評判のよろしくない)会社にエリクソンのような大企業がなぜ特許売却で合意したのでしょうか。

それを考えるために、(その2)ではエリクソンは何を譲渡して、その対価として何を受け取ることとなっているのかを見て行きたいと思います。取引条件を見ていくと、本件は売却という形式になっていますが、実質的にはランニング・ロイヤルティに近いものになっていることが分かります。


[IPXI] 取引開始を間近に控えた最近の状況アップデート

IPXI Logo知的財産権の通常実施権の一種であるUnit License Right (ULR)を市場で売買することを目指しているシカゴの会社 IPXI について、いよいよ取引開始を間近に控えて新たなメンバーの追加などの動きがありましたので、状況をアップデートしておきます。

まず、10月4日に以下の8団体が新たにメンバーに加わりました。JPモルガン・チェース、パロアルト研究所、コロンビア大学の技術移転機関などが入っています。

Corporate Members:

  • JP Morgan Chase & Co.
  • Palo Alto Research Center
University Members:
  • Columbia Technology Ventures, the Technology Transfer Office of Columbia University

Associate Members:

  • McGladrey, LLP
  • PATENTSHIP Patentanwaltskanzlei
  • Bridges & Mavrakakis, LLP
  • Olavi Dunne LLP
  • Kerr & Wagstaffe, LLP

そして、10月23日にはヒューレット・パッカードがファウンディング・メンバーとして加入しました。ファウンディング・メンバーは、加入後1年以内に取引対象となる特許ポートフォリオを提供する義務があるため、2013年中にはHPの特許ポートフォリオがIPXIの取引銘柄リストに並ぶことになります。

Corporate Founding Members:

  • Hewlett-Packard Company
Associate Members:
  • AutoHarvest Foundation
HPと同時に加入したアソシエイト・メンバー1社を含めてメンバー数は全部で37団体となっています。
取引開始の準備については、10月16日にカナダのトロントで開催されたLES(ライセンス協会)の年次総会において取引画面のプレビューがお披露目されたようです。iam magazine の blog によると、選ばれた3つのポートフォリオについて、詳細なディスクロージャーの取りまとめなどを含む事前の準備活動が進行中とのこと。ULRの潜在的な買い手との交渉も始まっており、近いうちにニューヨークおよびシカゴの銀行及びヘッジファンドに対してプレゼンテーションを行う予定とのこと。銀行やヘッジファンドは自分自身でULRを使って製品製造を行うわけではなく、純粋に投資としてULRを購入し、値上がり益を狙う立場で市場に参加します。実需だけでは取引が成立しないため、こういった市場に流動性を供給する参加者を確保することは非常に重要です。IPXIとしては、ULRの取引によって、技術と技術以外のもの(弱い経営陣など)を一緒に保有している企業に投資するのではなく、技術そのものに投資することができるようになることに対して、機関投資家が強い関心をもってくれることを期待しているとのことです。
IPXIのCEOであるMcClureによると、取引の対象となるポートフォリオのサイズについては、1千万ドル未満では経済的に成り立たないと見ているとのこと。
最初にファウンディング・メンバーメンバーとなったフィリップスが加入したのが昨年の12月で、1年以内に取引対象ポートフォリオを提供する義務があることを考えると、年内には取引が開始されるものと見込まれます。
IPXIについては引き続きウォッチしていきます。
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Koichiro Matsumoto
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パナソニックの巨額損失について

ちょっと前の話になりますが、パナソニックが今期に7,650億円の当期純損失になることを発表しました。
  • 売上高 73,000億円(前期比 ▲5,462億円)
  • 営業利益 1,400億円(同 +963億円)
  • 税引前損益 ▲3,650億円(同 +4,478億円)
  • 当期純損益 ▲7,650億円(同 +72億円) 
当期純損失は前期も7,700億円の赤字だったので2年でなんと1兆5,000億円の損失です。いったいどうしたらそんな巨額の損失を出すことができるのでしょうか。
まず、今年の赤字のうち4,000億円は税金(当期純損失と税引前損失の差額)です。これは、将来支払う税金との相殺で回収を見込んでいた税金の減額分について、業績悪化によって将来支払う税金が減少したことにより回収も見込めなくなったというものです。払いがなければ減額もできないということですね。
それから、前期には早期退職一時金として約1,000億円が計上されています。
そうすると残りは1兆円ですが、これらの大部分は無形固定資産とのれんの減損損失によるものです。この無形固定資産とのれんがいつ頃発生したものなのか見てみましょう。

chart_3_1.png
左の図はパナソニックの無形固定資産とのれんの残高の推移を平成20年度末から平成23年度末と2012年9月末まで並べたものです。
一見してすぐわかるように、 平成21年度末に前期の5,000億円から1兆5千億円へと約1兆円増加しています。これは、同年度中の平成21年12月にパナソニックが三洋電機を子会社化したことに伴い、その際に取得した無形固定資産とのれんが認識されているものです。
 
これらが減損損失の発生のもととなったものと考えられます。

 
当時、パナソニックは三洋電機の優先株式をすべて買い取りこれを普通株式に転換することによって三洋電機の議決権の50.2%を取得し三洋電機を子会社化しました。この取得対価4,038億円と残りの普通株式の時価総額5,324億円の合計額9,361億円が三洋電機の株式価値全体ということになります。
  1. パナソニックが優先株式の対価として支払った額 403,780百万円
  2. 既存の普通株式の時価総額(株価✕株式数) 532,360百万円
  3. 合計 936,140百万円
企業会計においては、この9,361億円が三洋電機の時価ということになり、これを三洋電機の資産および負債の時価に割り当てる手続きを行います。これは、お金を支払って買い物をした後で、買ったものの内容を調べてそれぞれに値段をつけて支払った合計額に合わせるというようなものです。

chart_1.png
左の図がこの取得原価配分の結果を表しています。左側が取得した資産で合計2兆4,500億円、右側上が引き継いだ負債で1兆5,138億円、差し引きが取得原価9,361億円ということです。
これを見ると、左側の上から4つの現金及び現金同等物、その他の流動資産(売掛金など)、有形固定資産(土地、建物、機械など)、その他の資産の合計と右側の負債の金額はほぼ等しくなっていることがわかります。なのでざっくり言ってこれらは資産・負債ネットでほぼゼロということになります。
そうすると、(お金に色はついていないものの)取得原価の大部分は無形固定資産とのれんの取得に充てられた、と考えることができます。つまり、パナソニックはお金を払って、三洋電機の無形固定資産(特許等)とのれん(将来の釣果収益力)を買ったということになります。

 
 

chart_2_1.png
取得した無形固定資産については、その内訳が開示されているので見てみると、約70%が特許・ノウハウになっていてこれが3,555億円、残りが顧客関係(既存の顧客から将来得られる利益の現在価値)、商標権などとなっています。
特許・ノウハウが3,555億円となっているということは、これらの特許から将来3,555億円の収益が生まれなければならない(そう思ってこの値段で買った)ということを意味します。そうでなければ価値を見誤ったということになり、会計上は減損損失を認識してこれらの金額を減額する必要に迫られます。そして、実際に前期と今期にそれが起こってしまったということです。
 
 
 

chart_4.png
それでは、もう一度最初のグラフに戻って、何が減損の対象となったのかもう少し細かく見てみましょう。
まず、商標権については、パナソニックがブランドを"Panasonic"に統一することとしたため、取得の翌期の平成22年度に償却されています。
次に、平成23年度(前期決算)においては、ともに旧三洋電機に由来する光ピックアップとリチウムイオン電池について、特許等とのれんで減損損失を認識しています。
さらに、今期9月末決算において、やはり旧三洋電機に由来するソーラーとリチウムイオン電池について、特許等とのれんで減損損失を認識しています。
こうして見ると、パナソニックは三洋電機の買収で得たものをほとんど活かすことができなかったということが言えると思います。
直近9月末における無形固定資産とのれんの合計額は7,554億円と三洋電機買収前と比較して2,200億円多い水準となっています。いまだ三洋電機から引き継いだものは残っていると考えられ、今後さらなる減損が生じる可能性があると考えられます。
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イギリスのパテントボックス税制:対象となる企業は?

2013年4月からイギリスにもパテントボックス税制(対象特許に係る所得の法人税率を10%に軽減するもの)が導入されます。

今回はどのような企業が対象となるかについてです。

主な条件は、1.在英国企業、2.特許権または独占実施権、3.開発要件、4.積極的保有要件、の4つです

まず、当然ではありますが、

  • イギリスの法人税課税を受けている企業であること

が必要です。在英国法人のほか、イギリスにいわゆる恒久的施設(PE)を有している場合も該当します。また、法人のみが対象となりますので、個人や信託は対象外です。

なお、パートナーシップを組んでいて、パートナーシップが特許または独占実施権を保有している場合には、パートナーである法人に適用がある場合があります。また、費用分担契約(cost sharing arrangements)を結んでいる場合には、契約当事者のうち一社が特許または独占実施権を保有、契約当事者のそれぞれが当該権利の開発に貢献、権利活用の利益を相応に享受しているときに、適用となる場合があります。

次に、特許等保有要件(ownership/licensee conditions)については

となります。ここで対象となる特許については、UK特許、EU特許のほかいくつかのEEA諸国の特許などがあります。詳細はリンク先をご参照のこと。

独占的ライセンスについては、地域的な制限があっても構いませんが、ある国の一部だけでは不可で少なくともひとつの国全体(at least country-wide)が権利範囲に含まれている必要があります。更に、独占的ライセンシー自らが権利行使できる、またはライセンサーが権利行使で得た損害賠償金を受け取る権利を有していることも必要です。

次に、開発要件(develoment condition)については

  • 対象会社自身が、対象となる特許を創造している(または創造に重要な貢献をしている)、あるいは対象特許の開発、対象特許を活用した製品やプロセスの開発に重要な活動を実施していること、または
  • 対象会社が特許保有要件を満たしている場合に、グループ会社が対象特許の創造、開発または活用を行なっていること

となります。ここで何が「重要な活動」に該当するかは事実問題となりますが、少なくとも既に出来上がっている特許を取得して製品に適用するだけでは「重要な活動」には該当しません。しかし、ブレークスルーとなるアイディア、アイディアを実現するためのテストなども重要な活動に該当するかもしれません。また、発生した費用、時間、労力などによっても重要な活動になりえます。

また、例えばある課題を解決するための研究を続けていたが、その解決策を他社が特許化したので、当該他社を買収して特許を取得した場合には、(特許が他社開発のものであっても)開発要件を満たします。他方、開発行為を伴わずただ取得した特許の商品化活動またはライセンス活動のみを行う場合には、開発要件を満たしません。(パテントトロールはここで排除されることになります。)

なお、A社についてパテントボックス税制の適用を受ける場合に、グループ会社のB社が研究開発を行い、その結果得られた特許をC社が保有していて、C社がA社に独占ライセンスを供与している場合も適用になります。

そして最後に、積極的保有要件(active ownership condition)については、

  • 対象会社自身が開発要件を満たしている(この場合、自動的に積極的保有要件を満たします。)、または
  • 対象会社が、実質的にすべての対象特許等の開発、活用に関連する計画および意思決定について関与していて、対象特許について積極的な管理活動を行なっていること

となります。この要件の目的は、対象会社が受動的な特許等保有会社ではないことを担保するということです。

例えば、対象特許等について、ある国における保護を継続するかどうかの決定、ライセンスを供与するかどうかの決定、発明について他の用途の調査などは管理活動に含まれます。同様に、対象特許を活用した商品を、どこでどんな性能でどうやって売るかといった活動も管理活動に含まれます。

日本企業が英国子会社についてパテントボックス税制を適用しようとする場合には、特許自体を譲渡することは考えにくいので独占ライセンスを供与することになるケースが多いと考えられます。この場合、製造子会社あるいは販売子会社の場合には積極的保有要件を満たす管理活動(開発業務またはマーケティング業務)を行なっていると想定されますので、パテントボックス税制が適用できるケースが結構あるのではないでしょうか。(なお、独占ライセンスのロイヤルティについては、別途移転価格税制の観点からの検討が必要です。)

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