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イギリスの「パテントボックス」制度は要注目

ちょっと前になりますが、経団連が来年度の税制改正として「パテントボックス」の創設を要望しました。(SankeiBiz経団連

3.パテントボックス・イノベーションボックスの創設

現行のわが国の研究開発促進税制は研究開発段階の投資活動に着目した制度設計となっているが、研究開発が成功を収めた後の段階において、その成果物である知的財産権等の無形資産を国内に保有し、商業化するインセンティブは乏しい。一方で、欧州諸国においては近年、知的財産権に起因する所得(ロイヤリティ、知的財産権の譲渡益、知的財産権を利用して製造した商品の販売益で一定のもの)について低税率または所得控除を適用する、いわゆるパテント・ボックス、あるいはその概念を知的財産権以外にも拡大したイノベーション・ボックスを相次いで導入している。英国も来年度から適用の予定である。

こうした中で、わが国が現状を放置するならば、かねてからの6重苦もあいまって、日本企業の研究開発拠点、あるいは企業の超過収益力の源泉である無形資産が当該制度の導入国に移転しかねない。従って、わが国においては、既存の研究開発促進税制の拡充・恒久化を行うこともさることながら、わが国の研究開発拠点としての立地競争力を維持・強化するためにも、欧州諸国ですでに導入されている当該制度の創設を急ぐべきである。

パテントボックスとは、法人の課税所得のうち特許等の知的財産による部分を抜き出して、前者に対しては低い法人税率を適用するものです。

企業にとっては、低い税率によって税金費用を削減できるメリットがあり、国にとっては、国内の研究開発拠点の流出を防止し、海外から研究開発型の企業を誘致し、国内でのイノベーションを促進し、引いては国内経済の活性化を図ろうとするものです。

既に、オランダ、スイス、アイルランドといった国でパテントボックス税制が導入されており、さらに来年4月からはイギリスでも導入されることが決まっています。例えば、スイスではそもそも標準の法人税率が12%〜25%と日本に比べて大幅に低いうえ、パテントボックスが適用される所得については8%〜12%とさらに低い税率となっています。

下記は、各国の標準の法人税率とパテントボックス税制(または類似の税制)に適用される軽減税率を示したものです。各国の制度は対象となる特許等の範囲、所得の範囲などが異なるため横並びでの比較はできませんが、いずれの国も相当程度低い税率を設定しています。

国名オランダルクセンブルクスイスアイルランドベルギーフランスイギリス
標準税率25%28.8%12-25%12.5%34%33.3%22%
(2013/4-) 
軽減税率5%5.76%8-12%0-12.5%6.8%15%10%

このため、グーグルは当初からスイスに、ヤフーは欧州本社をロンドンからスイスに移転日産も欧州本社をスイスに移転ホーユーがロンドンからオランダへ移転、サンスターが大阪からスイスに本社を移転しているほか、ルクセンブルクにはスカイプが世界本社を、eBay、Apple、帝人、ファナックといった会社が欧州本社を置いています。

このようにイギリスの法人税率が欧州各国に比べて競争力が失われてきたため、イギリス政府は標準の法人税率自体の引き下げ(26%から22%へ段階的に引き下げ)に加えて、パテントボックスを導入することにしたものです。

イギリスのパテントボックス税制では、製品の一部でも対象特許が用いられていれば当該製品から発生する全世界(特許を取得していない国を含む)の所得の全額がパテントボックス税制の対象となる、特許保有会社と開発会社はグループ内の別会社でも構わないなど、かなり広範な範囲で本制度の利用が可能な設計になっています。

現在の日本の法人税の実効税率は復興特別法人税を含めて約38%と上記に比べるとかなり高い水準となっているため、イギリス法人において特許を用いた製品の製造・販売を行なっている場合(ほとんどの場合、該当するものと想定されます)には、来年4月からの適用開始に向けて、パテントボックスの利用により税金費用の削減が可能かどうかを検証する必要があります。

主な検証のポイントは以下のとおりです。

  • 英国法人がUK特許またはEU特許を保有しているか
  • 英国法人がUK特許またはEU特許の独占実施権を保有しているか
  • 製造、販売している製品に当該特許が用いられているか
  • 当該特許は当該法人またはグループ会社が発明したものか
  • 当該法人がパテントボックス適用のための「開発要件」と「管理要件」を満たしているか
  • 当該法人はR&D税制による控除額を十分に使用しているか
  • 当該法人が収受するロイヤルティは移転価格税制に対応しているか
  • 当該法人はタックスヘイブン税制の適用除外要件を満たしているか
  • 節税額はどの程度と見込まれるか

上記が満たされるよう、またパテントボックス税制を最大限活用できるように、グループ会社間での特許の保有(どの会社に保有させるか)やライセンス関係を見なおしていく必要があります。

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IP Valuation Patent Office
www.ipval.net
Koichiro Matsumoto (Patent Attorney)
kmatsu@ipval.net
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