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エルピーダ、特許訴訟で和解に応ずる。相手はあのインテレクチュアル・ベンチャーズ

本件、日本ではほとんど報道されていませんが、会社更生手続き中のエルピーダメモリが米国における特許侵害訴訟において和解に達したことが、相手側であるインテレクチュアル・ベンチャーズ(Intellectual Ventures)ニュースリリースで明らかになっています。(なお、エルピーダ側はリリースを出しておりません。)

ニュースリリースによりますと、2012年9月24日にIV社は3件の係争案件について、SK hynix(旧ハイニクス半導体)およびエルピーダメモリと和解に達し、裁判所およびITCにおける両社に対する提訴をすべて取り下げるとのことです。

細かい和解の条件は開示されていませんが、別途出ているIV側の責任者であるMelissa Finocchio氏のブログを見ますと、両社はIV社とライセンス契約を結ぶことになったようです。

このインテレクチュアル・ベンチャーズという会社はマイクロソフトの元CTO(Chief Technology Officer)だったNathan Myhrvoldという人が設立した会社で、自ら研究・開発をして特許出願をしているほか、いくつかの特許買取ファンドを運営していて極めて多数の特許を買い集めていることで有名な会社です。

また、今の産業革新機構は、当初は政府の「知的財産による競争力強化専門調査会第10回(2009年1月14日)」あたりでは、 日本版インテレクチュアル・ベンチャーズともイノベーション創造機構とも言われていたもので、知的財産に投資するファンドとしてその頃から一部業界では注目の会社でした。

更にIV社の日本代表は、知的財産業界では著名な元富士通常務知的財産本部長の加藤幹之氏であり、着々と日本でも存在感を増してきています。大学とも一定の関係を築いているようで、最近では慶応大学とともにセミナーを開催しています。

さて、そんな何だか得体のしれない特許ファンドを運営しているIV社は、基本的には買い集めた特許を他社にライセンスして収益を獲得するというビジネスモデルでやっていました。利益獲得のために特許を買い集めているというところは、いわゆるパテント・トロール(自らは製品やサービスを作らず、他社からロイヤルティ収入を得ることを目的に特許を取得する会社。Non Practicing Entity, NPEともいう。)と同じであり、人によってはIV社は世界最大のパテント・トロールであるとも言われています。ただ、CEOのNathan Myhrvoldは繰り返し「極力裁判はしない」と言っていて実際に特許侵害訴訟は起こしていませんでした。ただし、2010年12月までは。その時に訴えられた会社のなかに、エルピーダとハイニクスが含まれていたのです。

実は今回の和解が知財業界で注目されているのは、エルピーダはあまり関係なく、IV社にとって最初の訴訟案件での最初の和解となったからなのです。Melissa FinocchioはCEOの方針に従い法廷ではなく会議室での握手を志向すると書いていますが、結局裁判をやって和解に持ち込んでしまった以上、トロールとどう違うのかは説明が困難です。

いまだ和解をしていない他の被告会社は、多額の費用をかけて裁判を継続するのか、和解してライセンス契約を結ぶのか、悩ましい日々が続きます。

パテント・トロールは、自らは何も生み出さず特許権を振り回して事業会社の事業を人質にお金をせしめていく無法な会社というイメージを持たれていますが、最初に特許を買い取る際にはそれで儲かるかどうかは保証されておらず明らかにリスクを取っています。特許を売った側は自分たちでは現金化が困難な特許権が現金になるわけで、IV社のおかげで自分たちが持っていた特許の価値が顕在化するのはありがたいことです。売る側である大学や個人、破綻会社なども事業を自ら行なっていないという意味ではトロールと一緒なので、トロールかそうでないかの線引は難しいのです。

なお、日本では裁判をやってもあまり多額の賠償金が取れないこともあって、トロールはあまり活躍できていないようです。こんな国では特許を取る意味があまりなく、特許の価値も低いものとならざるを得ませんが、果たしてこれでよいのでしょうか。

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IP Valuation Patent Office
www.ipval.net
Koichiro MATSUMOTO
kmatsu@ipval.net
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