New gTLD: 今後の手続き [valuation]
新しい一般トップ・レベル・ドメイン(new gTLD: generic Top Level Domain)の申請期間が終了し、6月13日にICANNから申請のあった全リストが公表されました。
今後は、これらの申請について、一般からのコメントあるいは反論を受け付ける期間となります。自らはドメイン申請を行わかった多くの企業・団体にとっては、自分たちの利益を守るための活動はまさにここからスタートすることになります。
「コメント」というのは、公式は申請に対する公式な反論ではないため、それ自身によって申請がブロックされることはありませんが、登録審査の過程で参考資料とされるもので、誰でもコメントを作成することができるようになっています。
コメントの受付期間は2012年6月13日から8月12日までの2か月間で、既に現時点(6月26日)で164件のコメントが一般に公開されています。(リンク)
"ART"、"BIBLE"、"CHURCH"、"PATAGONIA"といった文字列について多数のコメントが見られます。このうち、"PATAGONIA"については、アウトドアウェアのパタゴニア社が申請しているのですが、コメントを見ると「地理的表示」である、アルゼンチンの一部である、などとあります。他方、今のところ、"TOKYO"や"OSAKA"についてはコメントは寄せられていません。
"APPLE"(アップル社)について、普通名詞なので不可とのコメントも見られます。同様のコメントが"VIDEO"(アマゾン社)についても見られます。”BOOK"(アマゾン社)について、".book"は".com"と同じように使われるべきで独占の対象ではない、とのコメントがあります。
さて、コメントは誰でもなんでも自由に言える掲示板のようなものですが、本気でドメイン登録を止めようと思ったら公式な反論(Objection)をしなければいけません。 反論は以下の4つの類型のいずれかに該当している必要があります。
反論の類型 Objection ground | 理由 Standing to object | 反論できる人 Who has standing | 紛争処理機関 DRSP |
String Confusion | 申請されているドメイン名が既存のTLDまたは今回申請されているTLDと類似していて紛らわしい。 | 類似している既存TLDの運営者または新規TLD申請者 | ICDR |
Legal Rights | 申請されているドメイン名が既存の法的権利を侵害する。 | 法的権利を有する人(例:商標権者) | WIPO |
Limited Public Ieterest | 申請されているドメイン名が公序良俗に反する。 | 誰でも | ICC |
Community | 申請されているドメイン名が既存の団体を連想させる。 | 申請されているドメイン名によって連想される団体 | ICC |
これら4つの類型のうち、多くの企業にとって関心があるのは、2番めの"Legal Rights Objection"だと思います。これは、典型的には他人が申請しているドメイン名が自社のブランド名と同じあるいは類似した文字列となっている場合が該当することになります。紛争処理機関は弁理士にとってはおなじみのWIPOです。
さて、公開されている申請ドメイン名リスト(全1,930件)のなかに自社ブランドと抵触しそうなものを見つけたら、さっそくWIPOに反論を提出、といきたいところですが、この紛争処理手続には所定の費用がかかります。紛争処理に当たっては、1人または(両社が合意すれば)3人の専門家によるパネルが設置されることになっており、1人パネルの場合には1万ドル(DRSP費用 2千ドル、パネル費用 8千ドル)、3人パネルの場合には2万3千ドル(DRSP費用 3千ドル、パネル費用 2万ドル)となかなかお高い料金表となっています。なお、同一の申請ドメイン名に対して複数の反論がある場合にはパネル費用は前記の60%、また単独で複数のドメイン名に対して反論を出す場合には同80%にディスカウントされます。
それにしても、最低1万ドル(+反論文書作成のための弁護士・弁理士費用等)がかかることを考えると簡単には仕掛けられないとは思います。ですが、例えば"BEER"や"FILM"といったドメイン名が申請されており、これらがそのまま登録されると "kirin.beer"とか"fuji.film"といったURLが可能となるため、やはり反論を出しておくべきではないかと思われます。
反論提出期間はICANNによると「約7か月」ということなので年内一杯は検討する時間があります。グローバルに活動している企業においては、申請ドメイン名リストを見た上で、反論を出す、出さないについて社内で検討されてはいかがでしょうか。
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